【契約段階の要件】
○本人の意思能力の存在
公証人に本人との面談を義務付けている(法務省通達)
したがって、原則として本人は公証役場へ出頭する必要がある
←契約締結時における本人の判断能力及び本人の真意を公証人自ら確認必要がある
←本人の判断能力が疑われる状況にあるときには医師の診断書等を準備しておく必要がある
<大阪高裁平成14年6月5日決定>
任意後見と法定後見とが競合する場合
公証人は本人に意思能力があるとして任意後見契約を締結し、
家庭裁判所は事理弁識能力が著しく不十分であるとして保佐開始の審判決定をした。
「~「本人の利益のため特に必要があると認められるときに限り」の点について、心理・調査が尽くされたとは
認められない」として、原審を取消し差し戻した。
○法務省令で定める様式の公正証書による要式契約である
・成年後見登記簿に登記 (23年度改正有)
←公証人は公正証書を作成したときは、法務局に任意後見契約の登記を嘱託しなければならない。
(趣旨)任意後見契約が締結されている場合には、原則法定後見が開始されないという法的効果を伴う
・証書の記載事項(本人の出生年月日、本籍+任意後見受託者の住民票上の住所)
・作成時の提出書類
本人の戸籍謄抄本・住民票の写し + 任意後見受託者の住民票の写し(法人の場合─法人登記簿謄抄本)
○代理権の対象となる事務の範囲の特定
・法定の様式として「代理権目録」が定められている
・委任事項となるもの
「本人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務」
・身上監護(生活、療養看護)に関する事務
介護契約、施設入所契約、福祉サービス利用契約、医療契約、入院契約等
・財産管理に関する事務
預貯金の管理、不動産の管理、年金家賃等の定期的収入の受領、家賃公共料金等費用の支払
生活費の送金、遺産分割協議、居住用不動産の購入・処分等
・委任事項とならないもの
・介護行為等の事実行為、
・婚姻、離婚、養子縁組、離縁等の一身専属行為
・施設入所時の身元保証(損害賠償の保証、身柄引取り、遺体引き取り)
・医療行為の同意
成年後見人の同意権を立法担当者は否定。
任意後見においては本人の意思に基づいて予め決められるので認める余地はあるかも
・延命治療の開始・停止
任意後見契約とは別の枠組みで日本尊厳死協会に登録する等本人の意思を明確に表示される必要あり
・死後の事務(委任者の死亡により委任は終了する)
・埋葬、火葬、生前の債務の支払い
← 民法654条の応急処分義務として対応可能か
← 死後の事務については本人の死亡によっては終了しない特約を付した「死後事務委任契約」を
別途締結
また、被相続人である本人の解除権は相続されるので、解除権蜂起特約をも付しておく必要あり
<最高裁判例あり>
相続人全員から~なのか特約を有効と認定したのか理由が定かでない
→ 公証人と特約について相談要
← 任意後見受任者が当該契約を締結し更に遺言執行者に指定されていれば、
任意後見事務から死後の事務までの一連の手続きはスムーズに進む。
・死亡届
戸籍法の改正(87条2項)により、任意後見人もできるようになった。
・問題となるもの?
・居住用不動産の処分(売却、新貸借の解除、抵当権の設定等)
法定後見の場合 ─ 家庭裁判所の許可要(民法859条の3)
任意後見の場合 ─ 不要 ← 危険 → 任意後見監督人と相談???
○後見人の報酬
・原則、無償
特約が必要。この場合 後払いが原則である
↓よって
定期的に報酬を受領するためには支払時期の合意をしておく必要がある
<納付手続き>
平成23年度4月1日から登記手数料について収入印紙によって納付
後見登記等に関する法律第11条2項
当分の間、手持ちの登記印紙によって納付が可能
<手数料>
平成23年4月1日から成年後見登記の登記手数料の変更が予定
登記の嘱託又は申請
<登記の種類> <変更前> <変更後>
後見・保佐・補助開始の審判登記 4000 2600
任意後見契約締結の登記 4000 2600
変更の登記 2000 1400
後見命令等の登記 2000 1400
【任意後見の対象者】
○任意後見契約が登記されていること
○精神上の障害が出てきた
○判断能力が不十分になった
【費用】
○11000円
─出張を求めた場合には、出張旅費が加算
【その他】
○任意後見契約の文例については、日本公証人連合会で基本となる文例作りが行なわれ、法律に施行に先立って発表
○職業後見人が任意後見受任者になる場合には、初対面で任意後見契約をいきなり締結することは危険
【任意後見人を選任するにあたっての留意点】
○任意後見人には、取消権がない ← 法定後見とは異なる点
↓つまり
本人が単独で行った法律行為について、任意後見人はこれを取り消すことができない
取消権がないと困るケースの例示としては、保佐人の代理権の範囲が挙げられる
<具体例>
○詐欺的な投資話を信じて定期預金等を解約し元本割れリスクのある投資等に利用した場合
任意後見人は任意後見契約に基づいて取消権を行使し元本を取り戻すことができない
○本人が高価な布団などを分割払いやリース契約で購入したとき
○原野商法という詐欺的な商法があり、ほとんど無価値な土地を高額で購入したような事例では、
任意後見人が本人にとって不要な土地売買契約を取り消すことができない
○平成17年に埼玉県で起きた高齢者姉妹の自宅を高額な金額でリフォームした事件において
姉妹は成年後見制度を利用していなかったため成年後見人等の支援を受けることができず未然に防止でき
なかった。
この場合、法定後見を利用していれば成年後見人等が本人の行為を取り消すことができたといえるのに対して
任意後見制度を利用していたとしても、任意後見人は当該行為を取り消すことができなかったといえる
【うまくいかない任意後見契約締結のケース】
○死後の事務の為だけに締結
─本人が任意後見人に財産管理及び療養看護の事務を依頼するつもりがないのに任意後見契約を締結
してしまう場合
○本人の入院や施設入所の保証人になってもらうために締結
─本人が任意後見人に本人の入院や施設入所の保証人になってもらえると思っている場合
○本人が任意後見を利用しないで支援を希望している場合
─本人が判断能力の低下を伴わない不治の病を患っている場合、任意後見がスタートする可能性が少なく、
任意代理契約での支援を希望している場合、本人の同意を得られないので、
任意後見契約の締結が困難となることが想定される
【任意後見の契約者(委任適格者)】
○高齢者
○精神障害者
精神障害者であっても任意後見契約wお締結できる判断能力がある方
○知的障害者
利用できる場合がある
○身体障害者
身体障害者が成年後見制度を利用する場面は多いのではないか
EX 心臓ペースメーカーを利用している方
→ 定期的に病院に通院機器のメンテナンスを行っているが将来認知症になる心配がある
長年糖尿病を患われ網膜剥離などにより目が不自由な方
→ アルツハイマーになる心配
○任意後見契約の積極的利用を考えている者
夫婦に子供がいない場合
─夫に先立たれた妻は自分の老後を第三者に任せようと考え、自宅を処分し有料老人ホームに入所し、 将来、認知症などになり判断能力が不十分になったときのために締結
─夫に先立たれた80歳の妻が区報で成年後見制度のことを知り、東京都司法書士総合相談センターで
法律相談を行った結果、足が不自由だが判断能力が低下しておらず締結することができる旨のアドバイス
を受け、後日任意後見契約を締結した。
─仲の良い家族一家で親戚に迷惑をかけたくないため、両親のために子供が任意後見人となる任意後見契約
を締結し、さらに子供が万一の場合に備えて第三者と締結
─妻を介護しながら自立した生活を送っていたが最近物忘れがひどくなり日用品の管理も危うくなり、 次第に該妄想が発症したため、長女の勧めで通院したところ、認知症ではなく総合失調症であるいう診断
を受けた。しかし、以前から教育者であり性格も現額であったことから、法定後見では本人のプライドを
傷つけると考え任意後見契約を締結
─子供の時に認知症と診断された子供と母親が2人で生活をしていたところ、
最近母親に認知症の症状が出てきたため2人で通院した結果、
子供は任意後見契約を締結できる旨の診断を受けたので、
職業成年後見人を任意後見受任者とする将来型の任意後見契約を締結
予想されるが保険に加入する感覚で長い目で任意後見制度を積極的に利用する若年層がいることは、 日本における任意後見制度に重要な示唆を提起している
【受任適格者】
○任意後見人の資格に特に法律上の制限はありません
↓
本人が選任した任意後見受任者が不適任者であった場合の対応策は?
→家裁は、任意後見監督人選任の申立てに対して、却下の判断を下し、
これによりその効力が生じないことになる
↓
任意後見人の適格性の審査については、
家庭裁判所による任意後見監督人選任審判の段階で、チェックの手続きが確保されている
○本人が信頼できる人を指定できる。← 法定後見と異なる点
↓
<本人の親族> <本人の親族以外>
○ 妻 弁護士、司法書士、社会福祉士
○ 夫
○ 子供・姪
○ 甥
【契約手順】
○法律実務家に相談
区役所、社会福祉協議会、地域包括支援センター、在宅介護支援センター、病院の相談室、老人施設
などで、任意後見制度のパンフレットを入手し、あらましを把握
東京都司法書士会では、無料の成年後見相談を予約、面接、電話による相談、インターネットによる相談
↓その後
弁護士、司法書士などの法律実務家に相談
○任意後見受任者と相談(相談)
本人の意向に沿った人に後見事務を行ってくれる人を選任することが大切
紛争がない場合 ─ 本人の身近にいる信頼できる家族や親族
紛争が予想される場合 ─ 弁護士、司法書士、社会福祉士などの職業後見人
○任意後見契約公正証書(案)の作成
○公正証書の作成